ネパールの複合災害から考える、グローバル防災とインフラの未来

ネパールの複合災害から考える、グローバル防災とインフラの未来

2026年8月、ネパール北部、中国との国境に近いヒマラヤ地域で大規模な土石流と洪水が発生しました。

道路や橋、住宅、通信設備、送電設備、水力発電施設などが広範囲に被害を受け、多くの方が犠牲となり、現在も行方不明者の捜索や被災者支援が続いています。

⚠️ 単なる「洪水」「土砂災害」ではないメカニズム

当初、アメリカ地質調査所(USGS)では地震として検知されました。しかしその後の解析では、地震が先に起きたのではなく、氷河を含む大規模な斜面崩壊や土石流そのものが、M5.2相当の地震波を発生させた可能性が高いと指摘されています。

大量の氷、岩石、水が一気に山を流れ落ち、川を通じて約100キロ下流にまで影響を及ぼしたとされています。

私たちはこの災害から何を学ぶべきでしょうか。

私は今回のネパールの事例は、単に遠い国で起きた災害ではなく、これからの日本の防災、企業のBCP、さらには世界のインフラ政策を考えるうえで非常に重要な警告だと感じています。

地震だけ、洪水だけでは考えられない時代へ

ネパールは世界でも特に地殻変動が活発な地域の一つです。インドプレートが北上し、ユーラシアプレートと衝突することでヒマラヤ山脈が形成され、現在も地殻には大きなひずみが蓄積しています。2015年にはM7.8のゴルカ地震が発生し、多数の犠牲者と甚大な被害をもたらしました。

つまり、ネパールはもともと地震や地すべりの危険性が高い地域です。

しかし、現在はそこに新たな要素が加わっています。それが、気候変動による山岳環境の変化です。

氷河や永久凍土が融解すると、それまで凍結によって安定していた岩盤や斜面が不安定になります。さらに豪雨が加われば、地すべり、土石流、洪水、氷河湖決壊などが連鎖的に発生するリスクが高まります。

これからの防災で想定すべきリスク
地震 × 豪雨 × 土砂災害 × 停電 × 通信障害

一つの災害が次の災害を呼び、影響が社会インフラを通じて広がっていく「複合災害」の時代へ

日本とネパール、同じ地震国でもリスクは異なる

日本とネパールには「地震が多い」という共通点がありますが、災害の形やインフラの条件は大きく異なります。

日本で大地震というと建物倒壊や火災、津波などを想像しがちですが、ネパールのような山岳地域では、土砂崩れ、雪崩、氷河湖決壊、河川のせき止めなどが大きなリスクになります。

さらに重要なのが、インフラの「冗長性(じょうちょうせい)」です。

🚗 道路網の単一化リスク
一本の道路が寸断された瞬間、物流、救急、消防、支援物資の輸送が完全に停止する。
📡 通信・電力依存リスク
通信回線や発電ルートが1系統しかない場合、寸断により病院や避難所、行政機能まで麻痺する。

防災とは単に「壊れないものを造る」だけでは不十分です。これから重要になるのは、「壊れても社会を止めない仕組みをつくる」という考え方です。

BCPは「自社が無事か」だけでは足りない

この問題は企業経営にも直結します。今回のような災害を企業の視点で考えてみましょう。

自社の工場やオフィスは被害を受けなかった。しかし――

  • 電力が止まったらどうでしょうか。
  • 主要道路が寸断されて部品や商品が運べなくなったらどうでしょうか。
  • 通信ネットワークが停止し、クラウドや決済システムにアクセスできなくなったら。
  • 重要な部品を製造している海外サプライヤーが被災したらどうでしょうか。

自社が無事でも、事業は止まります。これこそがBCP(事業継続計画)を考えるうえで非常に重要な視点です。

従来のBCPは自社オフィスの耐震化や非常用電源の確保が中心でした。しかし、サプライチェーンが世界中につながった現在では、サプライヤー、物流、電力、通信、クラウド、海外拠点などを一つのネットワークとして考える必要があります。

「点の防災」から、「線と面の防災」へ

自社だけという「点」を守るのではなく、物流やエネルギーという「線」、地域社会やサプライチェーンという「面」まで含めてレジリエンスを構築することが求められています。

サプライチェーンは地球環境とつながっている

半導体、医薬品、食品、自動車部品など、私たちが日々利用しているものの多くは、世界各地の工場や港湾、インフラによって支えられています。

一見遠い国の洪水や地震が、日本企業の生産や消費者の生活に直接影響します。今後企業が考えるべきリスクは、地政学リスクや為替リスクだけではありません。

投資先や取引先を選ぶ際も、「その地域の気候リスクはどうか」「代替輸送ルートはあるか」「災害発生時に復旧できる体制があるか」といった視点が必須になるでしょう。

日本の防災技術を「輸出」ではなく「共創」へ

日本には、長年の災害経験から蓄積してきた多くの知見(耐震技術、津波対策、河川管理、気象予測、早期警戒システムなど)があります。

しかし、単純に「日本の高度な防災技術を海外へ輸出する」だけでは不十分です。

❌ 単純な「技術輸出」の限界
高度すぎるシステムは現地での維持管理費用が高すぎたり、専門技術者がおらず修理できなかったりして機能しなくなる。
⭕ 求められる「防災の共創」
現地の人が使え、現地で直せ、継続運用できること。日本の技術と現地の知恵を組み合わせ、地域に合った仕組みを一緒につくる。

国境を越えた連携こそが、世界全体のレジリエンス(回復力・強靭性)向上につながります。

災害支援で私たちにできること

大規模災害時、経験のない個人が善意だけで現地へ向かうことは、救助活動の妨げや現地の物資圧迫につながるため危険です。日本にいる私たちには、以下の支援が可能です。

  • 信頼できる団体を通じた寄付: 赤十字や国際NGOなど、現地で活動する組織への支援。
  • 正確な情報を広げること: SNSで真偽不明な情報を鵜呑みにせず、政府機関や公的研究機関など信頼できる情報源を確認してから拡散する。

「防災のその先へ」とは何か

防災とは、単に災害を防ぐことではありません。そもそも自然災害そのものを完全に防ぐことは不可能です。

だからこそ重要なのは、「命・生活・仕事・地域を守り、社会を未来へつなぐこと」です。

地震が起きた時にどうするかだけでなく、豪雨が重なったら、停電したら、通信や物流が止まったらどうするのか。一つの答えに依存せず、「もう一つの手段」を持っておくことが社会のレジリエンスを高めます。

今回のネパールの災害は、私たちに一つの問いを投げかけています。

「もし明日、地震と豪雨、そして停電が同時に起きたら、
あなたの家庭や会社には“もう一つの手段”がありますか?」

防災は、災害が起きてから考えるものではありません。平時にこそ想像し、備え、つながりをつくる。

その備えを自分だけで終わらせず、地域、企業、社会、さらには国境を越えて広げていく。それこそが、私が考える「防災のその先へ」です。

今回の災害で亡くなられた方々に心より哀悼の意を表するとともに、被災された皆さまの安全と、一日も早い復旧・復興を心より願っています。
本間 良一

この記事を書いた人

本間 良一 (Ryouichi Honnma)

薬剤師 / 日本防災共育協会 認定講師
「挑戦なくして成長なし」をモットーに、命を守る防災の普及と持続可能な事業構築を支援。
医療の専門知識と防災教育、SDGsブランディングを統合し、セミナーやコンサルティングを通じて 地域・企業・次世代が共に成長できる信頼の基盤づくりに取り組んでいます。

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