「まだ大丈夫」が一番危ない。大雨災害から命を守るために、今日からできること

「まだ大丈夫」が一番危ない。大雨災害から命を守るために、今日からできること
Diginess Lab 1.90 『防災のその先へ』

「まだ大丈夫」が一番危ない。大雨災害から命を守るために、今日からできること

――避難所へ行くだけが避難ではない。「防災のその先へ」考えたいこと

「これくらいの雨なら、まだ大丈夫だろう」
「今までここで大きな災害は起きていないから大丈夫」
「避難所へ行くほどではないと思う」

大雨や台風のニュースを見たとき、私たちはつい、そう考えてしまうことがあります。

しかし災害時、この「まだ大丈夫」という感覚こそが、避難を遅らせる原因になることがあります。

近年、線状降水帯や局地的な豪雨などによって、短時間で状況が大きく変化するケースが各地で起きています。

  • 数時間前まで普通に通れた道路が冠水する。
  • 小さな川だったはずなのに、急激に水位が上昇する。
  • 自宅周辺は大丈夫でも、避難経路が通れなくなる。

そして日が暮れれば、周囲の状況を目で確認することも難しくなります。

だからこそ大切なのは、
「危険になってから逃げる」のではなく、「安全に逃げられるうちに動く」こと。

今回はDiginess Lab 1.90『防災のその先へ』で取り上げた内容をもとに、大雨や水害から命を守るために、私たちが今日からできることを考えてみたいと思います。

■ 水害は「水が来てから」では遅い

水害について考えるとき、まず覚えておきたいことがあります。それは、

水が見えてから避難を考えるのでは遅い場合がある

ということです。豪雨災害では状況が短時間で変化します。特に怖いのが、道路の冠水です。

普段何度も通っている道路だからといって、安全とは限りません。アンダーパスや低い土地、河川沿いなどでは、水が急激にたまることがあります。

さらに道路が冠水すると、「いつもの道」という感覚そのものが危険になります。水で路面が見えなくなれば、側溝やマンホール、段差などを確認できなくなる可能性があります。

だからこそ、「まだ歩けそうだから大丈夫」という判断は禁物です。

避難は、危険な場所を突破することではありません。危険になる前に、安全な場所へ移動しておくこと。この発想が非常に重要です。

■ 水害時、「長靴なら安心」とは限らない

大雨のとき、「足が濡れないように長靴を履こう」と考える方も多いと思います。もちろん雨の中を歩く程度なら、長靴は便利です。

しかし、すでに道路が冠水しているような状況では話が変わってきます。

長靴の中に水が入ってしまうと、一気に重くなり、歩きにくくなる可能性があります。場合によっては身動きが取りづらくなります。

水害時に重要なのは、「濡れないこと」より「安全に動けること」です。

そして、そもそも水が深くなってから歩いて避難する状況を避けることが最優先です。「何を履いて逃げるか」も大切ですが、それ以上に、「いつ逃げるか」を考えておかなければなりません。

■ 夜間の避難は、昼間とはまったく違う

もう一つ考えていただきたいのが、夜間の避難です。

昼間なら見えるものが、夜になると見えません。

  • 道路の段差や側溝
  • 冠水している場所や流れてきた障害物
  • 河川の水位、崖や斜面の状態

停電が重なれば、街灯さえ消えてしまう可能性があります。しかも豪雨の中では、雨音によって周囲の音も聞き取りにくくなります。

だからこそ、「もう少し様子を見よう」「雨がもっと強くなったら避難しよう」と待っているうちに日が暮れてしまうことは、大きなリスクになります。

防災では、「今、大丈夫か」だけではなく、「数時間後も安全に行動できるか」という視点が必要です。

特に高齢者、小さな子どもがいる家庭、障害のある方、持病のある方、妊娠中の方、ペットと避難する家庭などは、移動に時間がかかる可能性があります。早めの判断が、その後の選択肢を増やしてくれます。

■ 防災最大の敵は「自分の心」かもしれない

災害時の判断を難しくするものがあります。それが、「正常性バイアス」です。

異常な状況が起きても、「自分は大丈夫」「ここ生までは来ないだろう」「今まで大丈夫だったから今回も大丈夫」と考え、危険を小さく見積もってしまう心理です。

これは決して「危機感がない人」だけに起こるものではありません。誰にでも起こり得ます。人間には、突然起きた異常事態をすぐには受け入れにくい性質があるからです。

では、どうすればいいのでしょうか。私は一つの方法として、「災害が起きてから考えることを減らしておく」ことが重要だと考えています。

あらかじめ決めておきたい行動基準の例:

  • 「川の水位がここまで来たら」
  • 「この情報が発表されたら」
  • 「明るいうちに」
  • 「高齢の家族がいるので、周囲より早めに」

平時のうちに自分たちの行動基準を話し合っておく。災害時にゼロから判断するのではなく、あらかじめ決めておいた約束に従って動く。それだけでも、正常性バイアスを乗り越える助けになります。

■ 「避難=体育館」と思っていませんか?

ここで、ぜひ知っていただきたい考え方があります。それが、「分散避難」です。

「避難してください」と聞くと、多くの人は学校の体育館や公民館など、市町村が指定する避難所をイメージするのではないでしょうか。

しかし、避難とは「避難所へ行くこと」だけではありません。

そもそもの目的は、危険な場所から安全な場所へ移ることです。

  • 自宅より安全な場所に住んでいる親戚や友人の家
  • 安全なエリアにあるホテルや宿泊施設
  • 建物内のより安全な場所への移動(垂直避難など)

大切なのは、「自分にはどんな避難先の選択肢があるのか」を平時のうちに考えておくことです。

避難先を一つしか考えていないと、その場所へ行けなくなった瞬間に選択肢を失います。一方、「A:指定避難所」「B:親戚の家」「C:友人宅」「D:安全な地域のホテル」など、複数の候補を持っていれば状況に応じて判断できます。これも防災における「余白」をつくる方法です。

■ 「避難所へ行きたくない」が避難を遅らせることもある

分散避難には、もう一つ重要な意味があります。「避難所へ行くことに抵抗がある」という心理的なハードルを下げられることです。

  • 知らない人と体育館で過ごすのは不安・プライバシーが心配
  • ペットや小さな子ども、高齢の親がいる
  • 感染症が心配、仕事を続けなければならない

人によって事情は違います。だから、「避難所へ行きたくないから、自宅に残る」という二択にしてはいけません。

第三、第四の選択肢を平時から準備しておく。それだけでも、避難への心理的ブレーキを小さくできる可能性があります。

防災で重要なのは、「正しい選択肢を一つ覚えること」ではなく、「状況に合わせて安全な選択肢を選べること」なのだと思います。

■ 企業にとっても水害対策は「経営課題」

ここまでは家庭を中心にお話ししてきましたが、防災は企業にとっても重要です。

大雨や台風が予想されている日に、従業員を何時まで出社させるのか。帰宅指示をいつ出すのか。店舗をいつ閉めるのか。こうしたことを災害発生後に考えていては、判断が遅れてしまいます。

だからこそ必要になるのが、BCP(事業継続計画)の視点です。

BCPの本質はシンプルです。「何か起きても、人命を守りながら重要な事業をどう継続するか」を平時に考えておくことです。

特にこれからの企業防災では、「社員を会社に集める」だけではなく、オフィス・自宅・サテライト・避難先など、働く場所そのものを分散する発想も重要になるでしょう。防災と働き方は、実は深くつながっています。

■ ハザードマップを「見る」から「使う」へ

今日からできる防災として、ぜひ取り組んでいただきたいのがハザードマップの確認です。

ただし、自宅が危険区域に入っているかを見るだけでは不十分です。自宅から避難場所までのルートも見てください。

  • 途中に川や低い土地、アンダーパスはありませんか?
  • 崖や急傾斜地はありませんか?
  • 夜間でも歩けそうですか?
  • 子どもや高齢者と一緒でも移動できますか?

さらに、自宅だけでなく職場周辺の災害リスクについても確認してみましょう。

「会社にいるときに大雨になったら?」「出張中だったら?」そこまで考えて初めて、ハザードマップが「見る資料」から「使える防災情報」に変わります。

■ 今日、一つだけ行動してみませんか?

ここまで読んで、「やることがたくさんあるな」と思った方もいるかもしれません。全部を今日やる必要はありません。一つでいいのです。

  • ハザードマップを開く
  • 避難場所を確認する
  • 家族に「大雨になったらどうする?」と聞く
  • 非常持ち出し袋やライトを確認する
  • モバイルバッテリーを充電する
  • 安全な場所に住む親戚や友人を思い浮かべる
  • ホテルを含めた避難先候補を考えてみる

どれか一つで構いません。

防災で最も大きな壁は、「いつかやろう」です。しかし災害は、その「いつか」を待ってくれません。

だから、「いつかやろう」を「今日一つやろう」に変える。私は、それだけでも大きな一歩だと思っています。

■ 防災は、大切な人との「約束」

私たちが目指すべきなのは、ただ災害を恐れて暮らすことではありません。

防災とは、非常食を買うことだけでも、避難用品をたくさん持つことだけでもありません。

自分自身の命、大切な家族、一緒に働く仲間、地域で暮らす人たちの未来を守るために、「何かあったとき、こうしよう」と平時から考えておくこと。

私は、防災とは大切な人との「未来への約束」でもあると思っています。

このブログを読み終えたら、ぜひ大切な人と5分だけでも「もしも」の話をしてみてください。

「大雨になったら、どこへ行く?」
「連絡が取れなくなったらどうする?」
「避難所に行けなかったら?」

答えが出なくても構いません。その会話を始めること自体が、防災の第一歩だからです。

■ 皆さんと一緒に「防災のその先へ」

Diginess Lab 1.90『防災のその先へ』では、一方的に防災知識を伝えるだけの番組にはしたくありません。

皆さんが実際に経験したこと、怖かったこと、困ったこと、備えていて助かったこと、そして「こんなとき、どうすればいいの?」という疑問をぜひ聞かせてください。

誰かの経験が、別の誰かの命を守る知識になるかもしれません。

災害が起きてから助け合うだけではなく、災害が起きる前から考え、つながり、備えている社会へ。それこそが、私が考える「防災のその先」です。

知る防災から、動く防災へ。
一人の防災から、みんなの防災へ。

皆さんと一緒に、「防災のその先へ」。

本間 良一

この記事を書いた人

本間 良一 (Ryouichi Honnma)

薬剤師 / 日本防災共育協会 認定講師
「挑戦なくして成長なし」をモットーに、命を守る防災の普及と持続可能な事業構築を支援。
医療の専門知識と防災教育、SDGsブランディングを統合し、セミナーやコンサルティングを通じて 地域・企業・次世代が共に成長できる信頼の基盤づくりに取り組んでいます。

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